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地元民も知らないあんかけスパの真実と、新時代を切り拓き続けるチェーン店【スパゲティハウス チャオ】

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極太のスパゲッティをトマトベースのスパイシーなソースで食べる、東海地区の不思議な洋食系ローカルグルメ「あんかけスパ」。

この記事は、一時期の名古屋めしブームやB級グルメをきっかけに全国的にも知られるようになった、このあんかけスパの本当のスゴさを知るための「あんかけスパの楽しみ方入門」です。

前回の記事はこちらからどうぞ。 

地元民も知らないあんかけスパの真実、そして老舗の本当のスゴさ【スパゲッティ・ハウス ヨコイ】

 

そして、名古屋駅至近で味わう絶品あんかけスパ、今回はこちらのお店です。

【チェーン店編】スパゲティハウス・チャオ 名古屋ゲートタワー店

チャオはあんかけスパ業界では珍しく早い時期から積極的な多店舗展開を進めてきたお店。緻密に計算され尽くした完成度の高い味わいが幅広い層に人気です。マイルドでクセのない味わいが「初心者向き」ともよく言われますが、同時にそれは「肉と野菜とトマトの旨味が凝縮したソースをラードの香ばしさを纏った麺と共に味わう」というあんかけスパの本質というべき要素を極めて精度高くミニマルに表現しているという点で、むしろマニアが最後に辿り着く到達点のひとつというのが私の認識です。キャッチーなカジュアルさといぶし銀の魅力を兼ね備えた押しも押されもせぬ名店と言えるでしょう。

ハンバーグメインのファミレス出店計画を方針転換した理由

スパゲティハウス・チャオの創業は1979年。創業者の森田文二さんはそれ以前、金属加工メーカーで品質管理の仕事をされていました。森田さんはあるとき「下請けではなく自分たちが主導権を握れる商売がしたい」と思い立ち、社員3人で飲食部門の関連会社を立ち上げます。

最初に考えたのは「ハンバーグがメインのファミリーレストラン」でした。時はまさにファミリーレストランの勃興期。首都圏を中心に大手チェーンの出店が続いていましたが名古屋にはまだロイヤルホストが1軒あるだけ。これはチャンスと考えたのです。

森田さん以下3人は猛然と行動を開始しました。昼間は料理学校に通い、夜はそれぞれ別の飲食店でアルバイト。森田さんは、目的と身分を隠して、とある洋食レストランで働き始めました。しかし数ヶ月が経ったとき、森田さんはハンバーグレストランの計画を突然白紙に戻してしまいます。

というのも事業計画を進める中で、スカイラークをはじめ大手チェーンは既に名古屋に事務所を構え、翌年以降の出店計画を次々に進めていることが判明したのです。加えて名古屋最大の飲食グループも参入を表明。自分たちのような新参者がとてもじゃないけどまともに戦えるわけがないと冷静に判断したわけです。

 

しかし、せっかくここまでやってきたのだから、と飲食は諦めませんでした。森田さんが目をつけたのがスパゲッティです。ちなみに当時まだ「あんかけスパ」という名称はまだありません。そして、そのあんかけスパ(と後に呼ばれることになるスパゲッティ)はその頃最初の黄金期を迎えていました。現在でも老舗として続く名店の数々はこの当時ほぼ出揃っています。ただしライバルは多いといってもそれらは全て個人経営の小規模店。これなら戦えると森田さんは判断します

 

そうと決まればまた行動が早い。当時の人気店にあしげく通いはじめます。そのとき同行したのが、料理教室での恩師である鈴木洋子さん。後にチャオのスタートアップメニューを全て手がけることになるこの鈴木さんと、元来「食道楽」で「大食漢」を自認する森田さんは、あっという間にとある人気店の味を研究し尽くして完コピします。ところが自信満々で開催した試食会はショッキングな結果に終わりました。80人いた参加者の8割が「これは辛すぎて食べられない」というのです。実はこのときの参加者は料理教室に通う若い女性たち。森田さんにとっては完璧だったソースの味は彼女たちには全く響きませんでした。

森田さんたちは即座にレシピの改良に取り掛かりました。そのためらいのなさには、ひとつの大きな理由がありました。森田さんが既存のスパゲッティ店を視察する中で気がついた最大の弱点、それは「女性客があまりにも少ない」ということ。森田さんは最初から、女性客を呼び込めればこの市場で勝てる、と確信していたのです。

女性にも好まれる味を創り上げ、店舗デザインも明るくおしゃれに。そんな新店チャオはその後順調にファンを獲得していくことになります。

あんかけスパ調理における革命的な2つの発明 

創業からまだ間もない時期に、森田さんはあんかけスパの調理法において革命的な発明を2つ成し遂げます。

ひとつはソース作りの工程。あんかけスパの「ソースの素」の一般的な工程は、野菜やトマトのピューレと牛肉を鍋ごと丸一日オーブンで煮込むというものですが、この方法ではどうしても店によって、また日によって仕上がりがバラつきます。そこで森田さんは新たな方法を考案。当時の規模としては過剰ともいえる資金を投資して特注の巨大な回転釜を導入、全店分の「ソースの素」を一括で仕込むことにしたのです。

大釜は「消える寸前くらいの弱火」で丸一日かけてゆっくりと火入れが進行します。このことによって、トマトをオーブンで煮込む場合には避けられない苦味の発生も抑えられたと森田さんは言います。もっともこの苦味はソースに独特のコクを付与するという面もあるのですが、チャオのソースは煮込む前段階で玉ねぎをいわゆる「アメ色」を超えてさらに限界までソテーすることでそのコクを出しています。野菜の自然な甘味とトマトのフレッシュ感が同居するチャオのソースの繊細な味わいは、言うなればこの時点で完成したと言えるでしょう。

 

もうひとつの発明は独特な麺の調理法です。あんかけスパでは固く茹でたスパゲッティを、フライパンを使いラードで炒めて調理します。忙しいお店のピークタイムともなると、ひと抱えもある大きなフライパンをダイナミックに煽って何人前ものスパゲッティを一度に炒める職人さんの姿を目にするものです。ところがこれが熟練の技術を要する上に重労働。職人さんは必ずと言っていいほど腱鞘炎を起こすとも。

この麺炒めの工程は大きく2つの段階に分かれます。前半は麺に対してたっぷりひたひたの量のラードでゆっくり温度を上げていき、麺がしっかり中心まで温まったらラードを切って高温で鍋肌に焼き付けるように炒めます。森田さんはこの前半の工程を低温フライヤーに置き換えることを思いつきました。低温フライヤーで1人前ずつ温められた麺を1人前ずつフライパンで仕上げるこの方法によって体力的な負担が減り力のない女性でも調理が可能になっただけでなく、麺の仕上がりの品質が抜群に安定することになりました。

森田さんは初めて飲食業界に足を踏み入れたとき「なんてアナログな業界なのか」と驚いたと言います。いかにも理系の技術者らしい感覚です。そして森田さんは実際に、それまで職人の技術と勘に頼って運営されていたスパゲッティの世界に次々に新技術を導入して効率化と標準化をはかってきました。普通ならこういった効率化はややもすると品質を多少犠牲にして進んでしまうことも多いのですが、チャオがすごいのはそれが品質を損ねるどころか逆に向上させ、そしてその全てがオリジナルの味わいを作り出すことに繋がっていった点なのではないかと思います。

チャオのソースや麺が常にどこよりも安定したクオリティを保っていることは、こういった一連のお話をうかがう以前から感じていたことでした。そのソースの味は人それぞれの好みもあるので一概には言えませんが、麺のクオリティはこの業界でも屈指といっていいのではないかと思っています。

チャオの麺は麺そのものに比較的しっかりとした味がつけられています。ソース無しでもそれ単体で抜群においしい。味付けの秘密を聞くと、実は塩だそうです。そのかわりその塩はイタリアンのパスタ同様、茹で湯にかなりしっかりとした量の塩を効かせ後から炒めるときに塩をふったりしないそう。そのことで塩味はマイルドにこなれたものとなり、麺そのものの旨味が増すということになります。そして、この方法にはもうひとつの大きな意味があります。炒めるときに感覚で塩を振るとどうしても作り手によるブレが出る。しかし茹でるときの塩分濃度さえしっかり守られればそれは必ず安定する。これもまた標準化と品質向上を同時に実現する森田メソッドです。

まずは麺だけを味わって食すのがオススメなのはチャオの麺が常に完璧だから

私はあんかけスパのお店ではほぼ必ず、まずは麺だけをソースがなるべく絡まないように味わいます。この食べ方は麺がいつだって「パーフェクト」なチャオでは特におすすめ。時には麺ばかり食べすぎて最後ソースが完全に余ってしまうこともあるので、最初から「ソース少なめ」でオーダーすることもたびたびです。あんかけ上級者の方はぜひ真似してみてください!

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そんな私がチャオでぜひ食べていただきたいと思っているメニューが2つ。それは野菜ソテーがトッピングされた「カントリー」と、ポークカツレツがのった「コートレット」。この日はせっかくなので、両方いっぺんに楽しむことにしました。つまり「カントリーのレギュラーサイズ、コートレットトッピング」とオーダーしたわけです。カツレツ単体にしっかりソースを絡めたかったので、ソースの量はデフォルトで。ちなみにコートレット単品のカツレツには本来はコーンもトッピングされているのですが、写真はトッピングで頼んだコートレットなので、コーンがのっていません。

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カントリーはあんかけスパ屋さんの定番メニューで、通常は玉ねぎ・ピーマン・マッシュルームのソテーがのっています。ここにウィンナーやハムなどが加わると「ミラカン」になるわけですが、カントリーは野菜のみ。そしてチャオならではの特徴はそこにタケノコと生トマトが加わっていること。この2つが加わるだけで味も食感もぐっと豊かになるのです。

この具だけを麺に絡めてソースなしで食べるのがまた最高。素材感を生かし切った、まさに滋味深い味わいはチャオの真骨頂です。あんかけスパという洋食にタケノコ、というのは少し奇異にも感じられるかもしれませんが、例えばいくつかの老舗洋食店ではハヤシライスにタケノコが加えられていたり、根室のご当地洋食である「エスカロップ」には必ずタケノコが使われていたりと、実は洋食にタケノコ」は伝統的な組み合わせなのです。

 

カツレツはやや薄めの豚肉が細かいパン粉を薄くまとってクリスピーに揚げられた、いかにも洋食屋の風情。アセゾネ、つまり塩と胡椒でしっかりと下味が付けられているのがまた「とんかつ」とは異なる洋食屋のカツレツであることを主張しています。あんかけソースとの相性は言わずもがななのですが、ここにさらに備え付け粉チーズを振るのが私のおすすめ。まさにミラノ風カツレツの洋食版と言ったところで、これだけで堂々とメインを張れる一品になります。

このカツレツにも大きな特徴があります。それが使用されている豚肉の部位。とんかつで一般的なロースやヒレではなく、肩ロースが使われていること。肩ロースは脂身が複雑にまんべんなく入り込んでおり、脂好きにはたまりません。肉質はやや硬いのですが、薄めの肉をクリスピーにあげるこの店のやりかたにはむしろ好適で、さくっとした歯応えと濃い旨味が楽しめます。森田さんいわく「ロースではあっさりしすぎてソースに負けちゃうんですよ」とのこと。肩ロースはカツとして形よく切り出すのが難しい部位でもあるのですが、そこは絶対に譲らない頑固さが嬉しいところです。

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あんかけスパの歴史を作り新時代を切り拓くお店 

1990年代はあんかけスパにとって「冬の時代」でした。イタリア風のパスタが瞬く間に普及していく中で、それは時代遅れの滑稽な料理とすら見なされたのです。女性や若者はますます寄り付かなくなっていきました。よく言えばシックな古き良きレストラン調の内装もその多くは単に古ぼけただけになってしまい、洋食業界につきものの後継者問題もあって多くの店が閉店してしまいました。そんな中で例外的に明るく開放的なチャオ各店は、女性も含めた幅広い客層を取り込み続けるある種の特異点でした。

しかしその後あんかけスパは「名古屋めしブーム」をひとつのきっかけにして徐々に復権を果たします。イタリアのパスタとは別物の個性的なローカルフードとして復権していくのです。そんな中、新しくできる店はどこも、チャオに倣うかのように明るくカジュアルなカフェ風の店作りでした。老舗が改装する時も同じ。現代ではもはやシックなレストラン調の店を探す方が困難です。
この一連の流れの中でチャオが果たした功績はあまりにも大きい、そう私は感じています。そしてこれからもきっと「あんかけスパの新時代」を切り拓き続けていくに違いないと確信しています。

 

紹介したお店

 

著者プロフィール

イナダシュンスケ

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鹿児島県出身。京都大学卒業後、食品メーカー勤務などを経て円相フードサービスを設立。多ジャンルの飲食店を経営する傍ら、食文化に関する著書も手がける。最新刊に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社刊)

イナダシュンスケ「みんなのごはん」過去記事はこちら

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