グルメレポ

「推し語り」こそ食の楽しみである――ちょっと変わったイタリア郷土料理のお店、池の上「ペペロッソ」

投稿日:2021年2月3日 更新日:

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唐突ですが、子供の頃お土産でもらった箱入りのお菓子に付いてきた「しおり」って読んでました?

僕の個人的なこれまでのリサーチだと「絶対読む」派と「あんなの誰が読むの?」派に割とくっきり分かれている印象があります。僕自身は完全に前者なのですが、今回の記事はもしかしたら後者の方には全く響かないのではないかと、ちょっとビクビクしています。

 

お菓子のしおりには、そのお菓子の名前の由来や歴史にまつわる物語、製造のこだわりが書かれていたり、ときにはそこに謎のポエムが添えられていたりします。個人的には文字数が多ければ多いほど嬉しいし、読めばそのお菓子が一層おいしく感じられると思っています。一方、読まない派に言わせれば、それを読もうが読むまいが味は変わらないわけだし、食べておいしければそれでいいじゃん、ということになるようです。

どちらが正解ということもないとは思います。あえて言えば読まない派の方が本質的で、読む派は情報に惑わされていると言えるのかもしれない。ただ読む派は、その情報に踊らされる部分もまた食の楽しみの一部と捉えているのかもしれません。

 

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さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回はお菓子の話ではありません。イタリア料理です。皆さんイタリア料理はお好きですか? きっと好きな方は多いですよね! 僕も大好きです。でも今日は皆さんがよく知ってるようなイタリア料理はたぶん一つも出てきません。ちょっと、と言うかだいぶ変わったイタリア郷土料理のお店、ペペロッソさんの紹介です。

※店舗は新型コロナウイルス感染症対策を実施しており、取材も対策を講じた上で実施しました。 

 

どう変わっているのか。くどくど説明するより、まずはこの日いただいた6,800円のコースの前菜として出された料理の説明を、お店の方の言葉そのままにここに書き起こしてみます。

 

ちなみにこの日テーブルを担当していただいたのは、ここペペロッソのマネージャーでチーフソムリエの藤本智さん。日本を代表するイタリアワインソムリエの一人として、界隈ではたいへん有名な方でもあります。

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「お二人にご用意いたしました前菜の一品目は冷菜です。大ニジマスを使ったマリネなんですが、生産地の静岡では『富士山サーモン』とも呼ばれています。それを単にマリネをするのではなく、天然酵母と米麹を使って毎日焼いておりますパンを水に漬けておきますと、乳酸発酵が進み酸味が出てまいります。その上澄を丁寧に濾してサーモンを漬け込み真空マリネします。熟成期間も長く、マスの旨味がしっかりと出てまいります。そこに合わせましたのがサルサアルクレン、西洋ワサビにパンとミルクを合わせた白いソースですね、そこにマスの卵のアクセントやクルミオイルの香ばしさを加えました。料理全体のイメージとしては北イタリアのフリウリヴェネツィアジュリアという地域のマスの料理をイメージしているんですが、そのあたりの地域は料理のあしらいにお花をよく使いますので、このお皿にもいろいろなエディブルフラワー、そして味わいのアクセントとしてのクレソンを添えております」

 

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書き起こしは多少端折りましたが、この間1分30秒。とにかく圧倒的に情報が多すぎて大渋滞を起こしているのですが、よどみないセリフ回しが音楽のように心地よく、つい聞き惚れてしまいます。そもそもの料理が聞いたこともない複雑怪奇な工程を経ているうえに、それをとりあえず隅々まで全部教えてくれる。そう。それがまさにこの店の魅力なんです。

 

もちろん何も言われずバクバク食べても文句なしにうまいんですよ。なんかこのサーモンうめー、ほんのり酸味効いててうめー、ソースは食ったことない味だけどわさび漬けみたいな味でうめー、イクラのプチプチうめー、そんでお花きれい! みたいな。でもこの説明があると無いとでは全然意味が違ってくるでしょう?

 

個人的に一番ぐっと来たのは「お花」のくだりです。この料理を出されてこのエディブルフラワーのあしらいがまず目に入ったとき、以前からのこのお店のファンである僕は少し不思議に感じました。硬派な店だと思ってたけど、昨今のインスタ映えみたいなのに合わせて時にはこういうこともやっちゃうのかしら、みたいな。しかしその伏線すら、「フリウリ地方ならではの文化」っていう文脈で最後きっちり回収してくる。完全にしてやられました。

 

ソムリエ藤本さんの語り口は、ワインの説明になるとさらに勢いを増します。少し時計の針を巻き戻して、この日最初に出てきた食前酒の説明を書き起こしてみます。

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「まずご用意いたしましたのはこのバローネ・ピッツィーニという生産者が作る、シャンパーニュにも匹敵する高品質なワインが作られるフランチャコルタというエリア、ミラノから、どうでしょう、車で1時間半ほど北に行ったところにイタリアで2番目に大きいマッジョーレ湖という湖があり、もともと氷河がブルドーザーのように大地を削って作った湖で、そのときにできた丘ですね、そこでシャルドネとかピノノワールといったブドウを使って高品質な泡立ちの辛口スパークリングワインを作るエリア、だと思っていただければ。

1800年代から続く生産者なんですけど90年代に今のオーナーに代替わりして、今のオーナーは元々ミシュランでも二つ星のアンティカオステリアデルポンテというところのソムリエもされていた方が今そこで作っているワインということです。シャルドネ、ピノノワール、ピノビアンコ、3つのブドウをうまくブレンドして複雑ながらシャンパーニュのように果実味はスレンダーで酸はキリっとして下支えのミネラルとクリーミーな泡立ちが楽しめる辛口のスプマンテになっています。イタリアワインの特徴とも思われがちな果実風味のボリュームは微塵も感じさせない非常に洗練されたスパークリングワインを、まずはお試しください」

 

と、これを1分30秒で語りきります。息継ぎ2回くらいしかしてないのではと思ってしまう怒涛の勢いです。

今度は固有名詞の大渋滞で情報処理が追いつかず途中からは半ば心地よいBGMのように流し聴きしていた僕の脳内では、ダイダラボッチのような巨人のピッツィーニさんが氷河を削ってそこに3種類のブドウを植えている、浜乙女のCMイタリア版みたいなイメージに転換されてしまってましたが、解釈としてはだいたい合っていたのではないかと思います(合ってない)。

何かに特別以上の思い入れのある人の過剰な語りが大好物な僕ですが、ジャンルを問わず何かしらのオタク気質を持っている人ならきっと共感していただけるのではないでしょうか。

 

料理一品とワインだけでもはや紙数がつきそうなのでこの後は駆け足でこの日の料理を紹介していきます。

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まずはアミューズ。左から、本シメジ、なめこ、黒舞茸の滑らかなスープにマスカルポーネのソースを合わせたもの。ほぼきのこそのまま、という味わいなのですがそれぞれ全く個性が違うことに否が応でも気付かされます。そしていずれも濃密な旨味。

 

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先程のマスの前菜を挟んで温前菜は、デザートのようなカボチャの料理。イタリア産のカボチャを焼いたりこしたり練ったりといくつもの工程を経つつ水分を徹底的に飛ばしていき、濃縮ぶどうのソースや豚の背脂などをあしらったもの。ちなみにこの料理は要素が複雑すぎて、「中世貴族が富を誇るための甘い味付け」の話から始まるその説明は3分を超えました。

 

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パスタ一皿目はポー川流域の稲作地帯で田んぼのカエルを使って作られるリゾットの米を米粒型のパスタ「リゾーニ」に置き換えたもの。チーズやバターの控え加減が絶妙でした。

 

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パスタ二皿目はシャコときのこ。シャコが海老に替われば一見、今回の料理で最も日本人にとってのイタリア料理のイメージに近い料理……かと思いきや食べるとハーブと甘唐辛子がガン決まりで思わずニッコリ。天然きのことともに送られてきたヒノキの葉もハーブ的に使われています。

 

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お肉は羊。瞬燻で仕上げられます。イタリアからは検疫の関係で羊が輸入できないので一番近い国境近くのフランス産です。オーソドックスな一品でありつつ、定番の骨付きのラムラックではなくモモ肉とスネ肉の盛合せ、ってとこが「らしい」ですね。

 

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デザートはトスカーナの栗の粉を使ったネッチというクレープの中にハーブリキュールのクリームと横にはサボテンジェラート。最後まで気を抜けません。

 

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ワインは各料理に合わせて少量ずつがペアリングされます。あえてよくあるタイプから外したワインが中心で、飲むと最初は少し戸惑ったりもするのですが、料理と合わせた瞬間腑に落ちるという周到なアプローチです。

 

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シェフの今井和正さんは修行時代からイタリア地方料理一筋。

「現代のイタリア料理は『おいしさ』という点では既にほぼ頂上まで到達しているので、味以上に大事なのが『自分たちは何であるか』なんです」

と語ってくれました。アイデンティティということですね。それがこの店の地方料理。「伝統料理とは昔から常に変革し続けてきたものでもあるから、単に昔どおりではなくその変革の先端を目指したい」、とも。

日本でこういう料理を出すことの難しさは?と尋ねると、ニヤリと笑って「日本人の舌に合わない点、ですかね」とうそぶきます。これはですね、自分も経験あるのでよくわかりますが、ある種の自虐ギャグみたいなもんです。実際のところこの店の料理に無茶な食べづらさみたいなものは実は一切ありません。ただしそれには、日本における一般的なイタリア料理のイメージを一度完全に払拭して臨むという前提が必要になります。その切り替えができないと確かに口に合わないと感じる可能性はあるでしょう。

 

イタリア料理が好きな人、ワインが好きな人、食べたことのない料理が食べたい人、オタクの推し語りが好きな人、お菓子のしおりを必ず読むタイプの人、この中の3つ以上に当てはまる方には全力でおすすめのお店です。緊急事態宣言が解除されたらすぐにでもご予約を!

 

紹介したお店

ペペロッソ(PepeRosso)
〒155-0032 東京都世田谷区代沢2-46-7 エクセル桃井1F
10,000円(平均)8,000円(ランチ平均)

営業時間(1/8~2/7):
・テイクアウト:11:00~20:00
・モーニング:11:00~12:00
・ランチ:12:00~16:00
・ディナー:16:00~20:00

※提供メニューや営業時間は変更の可能性がございますので、店舗にご確認ください。

 

著者プロフィール

イナダシュンスケ

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鹿児島県出身。京都大学卒業後、食品メーカー勤務などを経て円相フードサービスを設立。多ジャンルの飲食店を経営する傍ら、食文化に関する著書も手がける。最新刊に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社刊)

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